グレンラガンと電脳コイル

グレンラガン福井裕佳梨が持つ異形ぶりを十全に発揮させたことにより記憶に残るかもしれない。従来のアニメ的リアリズムからは異なる位相において展開された福井裕佳梨の声優性はニアに与えられた作品のリアリティを上書きしていくという要請にほぼ完璧に応えきったといえるだろう。孤高の位相から投げかけられる「シモンを信じます。」という理不尽な声のもと、理不尽なくらいの約束された勝利が訪れる。終盤のいくつかのシーンでは従来の位相に降りてきてしまっているのでもったいないが、その後にあるだろう異界の天使としてのシモンとの聖婚の前段階と捉えればいいかしらん?どちらかといえば正直イロモノとして聞く事が多かったけどニアにおける福井裕佳梨の声優性の発揮ぶりは他の声優の最良のそれと比しても全く見劣りしないレベルにある。反論は許さない。理解できない奴は電脳コイル相沢舞のカンナを聞くんだ、あれを声オタ的っぽく無理矢理な解釈すると上記になる。福井裕佳梨ほどの暴力性を孕んではいないが相沢舞のカンナも記しておくべきだろう。死者が残した謎としての特権的な位相からの声、文字通りの不可侵な異界からの声がハラケンと視聴者だけに分かる(ヤサコはカンナの声知らない)構図。外部に在る異なるリアリティに支えられた上で駆動していく物語。作品の空気を保つギリギリの美少女声で慎ましい少女性を体現しているにも関わらずカンナというキャラクターをはっきりと提示しないのも秀逸。例えばフミエはカンナのことをカワイイとは評さないのであの美少女声に視聴者は眩惑され、相沢舞のカンナは声オタ的センスをほとんど必要とせずに声優性を体感することができるはず。要請と演出で端的に表れた声優性として上半期の声優芥川賞はこの2名か。と分かりにくく声優アワードに反逆するぜ。単純に好きなのは伊藤静ヒナギクとか大原さやかのダーカーのゲストヒロインだった黒人娘とかアイマス能登がやってるメガネ娘とか本多陽子の石月真名です。

ウミショー

久々に生天目を素晴らしいと思いつつ単に俺が聞きたかった生天目性が出てるだけかと自問を繰り返し導き出されたのは劇中に表象されてるキャラクターが持つ指向、主に生天目からヒロインのあむろへと向けられる探求あるいは追求のベクトルが生天目の声優性とうまくフィットしていてすごく気持ちよかった、というのに落ち着きました。台詞と声量(音量?)もきっちり処理が施されていてそれもヨシ。魚を食べるシーンであむろが生天目に「今日は主人公はどうしたの?」と訊くところで「知らないわよ、別に付き合ってるわけじゃないし。」のところは生天目してるなぁって感じになれる。よい生天目でした。毎週このレベルならもう雪路とか聞いてられないぜ。

ゴーレム100

ゴーレム 100 (未来の文学)

ゴーレム 100 (未来の文学)

訳者の すごい 頑張り。
年間ベストに挙げられまくるのは確実だと思うけどなんか古臭いなあ。そういうのを超越してんのか?。原書は80年ということで当時の極北だったのだろう(古びてないが古い?)と思われる。山形浩生が解説で「現代のあらゆるSF読者にとってのあらゆるものたらんとした作品」って言ってるんだけど確かに全体小説ならぬ全体SFのような印象を受けた。しまいにゃジョイスまで担ぎ出してくるし。池上永一が書いたようなお下品バカノワールがいつの間にか人類の終末と再生へとスケールアップ、男性読者はゴーレムの正体を巡って二重のNTRも楽しめるぜ。あと精神世界での知覚表現ということで50ページくらい絵が付いてるんだけどこれがまたダサイw絵がダサイというよりその発想が。ちゃんと意味はあるんだけど80年臭漂いまくり。なんか貶してばっかだけど傑作です。SF観が美しくない(ジョイスパロやる時点でそういうのは気にしてないっぽいけど。)だけで。

虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

最後ワロタw
多くのSFオタはこれを読んで「俺がそのうち書こうとしていた」もしくは「こういうの読みたかった」と思うことだろう。王道の最新型。ベタすぎて逆に文句がいえない傑作。なのだが意匠がすっきりしすぎていて打ちのめされるような凄みはあんまりなかった。考察、検討されていく問題もよく出来た映画のシナリオのように整理が行き届いているのであっさりと読めてしまう。スクラップアンドスクラップな感じでニコライ・イリイチみたいな敵役のオッサンにもっと頑張ってほしかったな。

ジャン=ジャックの自意識の場合

ジャン=ジャックの自意識の場合

ジャン=ジャックの自意識の場合

ハルヒをバラード風の終末論として援用しながら書かれた衒学的なゴシック仕立てのメタリアルフィクション。作者が意図した水準でその試みが成功してるとは思わないけどかなりおもしろかった。こういうの大好き。逃避行の外堀がもうちょい埋まってたら最高だった。それでも相当キテる。円城と比べてあんまり読まれてないっぽいのでプッシュしときます。

オイレンシュピーゲル2

いまさらだけど冲方丁野阿梓の後継なんだよな。想像力とか素材の好みとか、ウブの方が幅広い現代性とポップネスも持ってるんだけどベンチャー企業の若手社長みたいなとこがデレさせてくれない理由、と。そして野阿梓やおいに走ったことと30歳にして現代ラノベの保守政権のようなポジションについた冲方丁やおいの圧倒的な誤読の暴力に可能性を見ていたあずさんと物語の御旗を掲げるうぶちん。オチはない。実際すごい面白くて自分のプレゼンをここまで完成度の高いエンタメに仕上げるあたりもう「参りました」と言うしかない。唯一の弱点だった萌えのズレもシュピーゲルシリーズでは修正されつつあり(まだ動物化してない萌えだが)←適当、単にギャルゲフォーマットじゃないってだけ。スプライトは動物化のスメルがするのでラノベ冲方政権は支持者を増やしていきそうです。歴史と物語が丁寧に織り上げられてラノラノしい読みも許してくれるので俺も1票。でも男の子にも戦場で暴れさせてくれる権利を与えてください。ガンダムマイスター